サブスクリプションが次世代ビジネスモデルの本命か?

 消費などの動向が大きく変化し、所有することの価値観、つまりは喜びや優越感が総じて小さくなっていっているような時代となってきました。所有することの最大の目的はその機能を使用することによって、便利、効率、流行、満足感、ひいては優越感を得ることでありました。しかし、時代が大枚を一時に支払わなくてもリユース、シェアリング、一部はマッチングなどで、それを満たしてくれるインフラがインターネットの大衆化により整備し始めて大きな変革が起きてきました。
 そんな中、完成品の製造メーカーは、ものが売れない未来を予想し、一部のITを駆使したマッチングやシェアリング・ビジネス企業に売上と利益を奪われる時代となっていくことを真剣に危惧し出し、製品の製造メーカー自身がシェアリングやサブスクリプション(※)・ビジネスに取組み始めました。
 この動きは、最終的にはC to CビジネスだけでなくB to Bビジネスにも広がり、IT設備、産業・生産設備にまで及んでいくものと思われます。これからの時代の新しいビジネスモデルとして、マッチング、シェアリング、サブスクリプションと進んで行くことは、疑う余地が非常に小さくなってきており、サブスクリプション・ビジネスを製造メーカー自身が始めることは、IT系企業から売上と利益を奪還する戦略の流れでもあると思われます。

 特に自動車産業ではその流れは環境対応などの社会的要求もあり他の産業分野より大幅に急速で、劇的な技術革新を伴う大変革が始まっています。ダイムラーが10年も前から、「car2go(カーツーゴー)」と言うカーシェアリングサービスを展開していたことは大きな驚きでしたが、欧州を中心にすで「世界中で8,500台が利用され、400,000人以上の会員数を誇る」サービスへと成長しているそうで、緩やかだった流れの急激な変化は驚くばかりです。自動車が所有するものから移動する手段として機能を適宜購入・使用するサービス、つまりはシェアリングやサブスクリプションへと転換していくことが容易に想像できますし、その先にはモビリティー・サービスと言う新しい産業形態(インフラに近いもの)が形成されそうな勢いです。この傾向が進んでいくドライビングを楽しむ趣味的な行動を除く一般的な車は完全に移動する手段としての機能を求めるものとなり、所有する車の台数はシェアリングなどにより大幅に減少すると多くの経済アナリストなどが予想されていますので、モビリティー・サービスと言う新産業形態まで発展させることが自動車産業の将来の生命線とも言えるかもしれません。巨艦トヨタでさえ、この流れに対応するための試験的試みとして、2019年からサブスクリプションによる高級車の提供を始めることを発表しました。

 しかし、自動車メーカーは、このシェアリングの普及に留まらず、さらにEV化と他のふたつの100年に一度と言われる大きな技術革新への対応も迫られており、前述のふたつに接続性、自動運転を加えたCASE(接続性:Connected、自動運転:Autonomous、共有:Shared、電動化:Electric)と言われる大きな4テーマへの取組みが加速しています。機械と制御技術の自動車産業が、IT、IoTを取込んだ産業構造へ大変革し、主役をIT系企業に渡さぬように多額の投資、M&Aで急速な対応強化を目指しています。そんな中、トヨタがソフトバンクに従来では考えられなかったソフトバンクに提携を持ちかけるなどと言うことが起きました。20年前には車のIT化提案を持込んだ孫社長をトヨタが断ったことからすると、まさに隔世の感です。

 日本にとって現在もっとも競争力のある産業である自動車産業が、過去の鉄鋼、造船、半導体などのように凋落の憂き目に遭わず、この大変革の大波を乗り切ってくれることを望まずにはいられません。また、その先には日本の車載用半導体・電子部品・センサー、自動車用軽量材料・素材、AIなどの先端技術関連企業の再興が期待されるのですから。


※ サブスクリプション
古くは書籍の定期購読などを指す言葉でしたが、現在はソフトウェアの期間定額制でMicrosoftのOffice 365、AdobeのAdobe creative cloud、AppleのiCloudなどで普及していますが、いよいよもの(製品:服、アクセサリー、車、機械など)の機能の使用権を借り、期間に応じて料金を払うと言う形に進化してきています。正確には「借りる」「買う」などとは異なる新しい概念ですが、「使用権を借りる」と言う感じが昭和の人間にはしっくりきますが...。

2018年11月07日