時代は変わり、産業の米は...”蓄電池”

 1990年代、半導体が「産業の米」と言われた時代があり、この当時日本の電機メーカー各社は競ってDRAMの高集積化とそのための設備拡大へと歩んでいました。しかし、今では半導体で世界トップレベルにあるのは、東芝のフラッシュメモリ、ルネサスの車載用半導体くらいになり、メモリ関連ではサムソン、プロセッサではインテル、また、スマホ用ではARMアーキテクチャーのクアルコムがトップブランドとなっています。半導体がまだまだ産業を支えていくことには変わりはなさそうですが、次のIoT時代に向かってAIの浸透、ビッグデータ活用、家電・自動車の情報機器化などが進展すれば、GPU、量子コンピュータ、超小型通信機能内蔵統合チップなどがすでに汎用化したメモリやプロセッサから主役の座を奪っていくことになると思われます。
 そのような流れの中で、意外にも”蓄電池”が高度な製造技術を必要とするため、今後の「産業の米」となるかもしれません。ちょうど最近、製造業のイノベーターの雄である「テスラ」の苦境が報道されました。本格的な電気自動車の普及を狙う"Model 3"の量産体制が整わず、月産5000台の達成時期を再度2018年6月末に延期しました。このため、先行している量産設備投資負担が重荷となり、過去最大の4半期決算(2017年10~12月)を計上しました。その原因が電池の組立工程にあるようです。テスラの製造工程はAIを含む最先端技術で高度に自動化されていますが、それでも蓄電池の組立工程は一筋縄ではいかない難しさがあるようです。部品レベルで、電極、セパレータ、電解質の含浸相材料など最新のリチウムイオン電池は高密度化と安定性の向上が著しく向上していますが、発火事故防止などの安全性確保には非常に高い組立精度が必要とされます。さすがのテスラ(および最先端の自動組立ライン)でもここが壁となっているのです。
 電気自動車は内燃機関を持つガソリンエンジン車やディーゼルエンジン車と比べて大幅に部品点数が減少するため、大きな市場規模を持つ製造業分野の中でも新規参入障壁が低いと言われ、中国などでも多くの新興企業が設立されているようですが、意外なところに高いハードルがあったと言うことでしょうか。現在、エネルギー密度が高く(蓄電量に対して電池重量が軽い)主流となっているリチウムイオン電池は、今でもしばしばスマホなどで発火事故を発生し、メーカーによる回収などの対処を強いられています。さらに、研究開発分野では、より安全性の高い蓄電池を目指して液体を全く使わない全固体電池などの開発もトライされているようです。半導体の高集積化競争とその進歩過程の様相は若干異なりますが、蓄電池でも革新的な技術の実用化により、モバイル関連機器、IoT機器、電気自動車などの基幹部品として、新しい時代の「産業の米」となっていくものと思われます。

2018年02月15日