地方創生の困難

 二年半くらい前に近くの大学に地域創生学部を新設する直前イベントで一般参加可の講演会があり、麻生太郎副総理が特別講演をされたのを聴く機会に恵まれました。さすが一流政治家、話はうまい、姿もカッコいいでしたが、地域創生に関して耳に残る言葉がひとつあり、見方が違うなぁと感心し、今でも覚えています。その言葉は、「地域創生(振興)とは、夜8時に人々が活き活きした街を創ること」というもので、商店街の人の行き来だけでなく、飲食店、旅館などの宿泊施設、はたまたご近所の寄り合いなど、何かしら人同士が繋がりを持って活動している状況のできている街と解釈しました。しかし、この短い一言がとても難しいことで、最近のテレビ番組で紹介される昭和レトロな商店街は夕方6時にはほとんどの店が閉まり、近隣に住むサラリーマンが帰宅の途につく際には暗がりとなっています。
 そんな中、頑張ってるなぁと思うのは地元の個人経営のクリーニング屋さんでしょうか。朝の出勤時に預けて、帰宅時に受け取れるように、朝8時~夜8時の12時間営業を結構高齢のご主人とそのお子さん世代の二世代で頑張っておられます。もうひとつ、近所の洋食屋さんも毎日ではありませんが、夜の8時に人の集まる場所になっています。元々は大学が近くにあり、郊外移転で少し寂れてしまったようですが、町内会の寄合所として機能しています。ご高齢夫婦の店ですが、お二人の人柄でしょうか、町会行事後の慰労会、夜回り後の休憩などなど、結構な頻度で通常営業の夕方以降も人が集まっています。さらに、未だに出前もしているため、ご近所の高齢者宅への久しぶりの洋食弁当の宅配もしばしばです。昭和レトロな商店街にもこんなお店が残っているといいのですが...。
 私の身近ではこんな様子ですが、尾道市向島の脱獄犯捜索のニュースには、驚かされました。
脱走が起きたことより、人口2万人の島に空き家が1000軒以上で警察が容易に調べきれずに逃走犯の発見に至らないとは。尾道と言えば、しまなみ海道で観光などでもそれなりに有名でサイクリングで渡る自転車愛好家が多いと聞いていましたし、向島は橋、渡し船共に便の良い豊かな暮らしのできる場所と思っていましたが、大きな流れが超高齢化、人口減少ですので程良い豊かさを保つのが困難なことがみてとれます。しまなみ海道が渡る島々は本当に美しく、架橋による地域創生が期待でき、ある時期は成されたときもあったと思います。途中には日本画家の平山郁夫さんの生まれた島(生口島)があり、そこに立派な平山郁夫美術館もありますし、お隣には耕三寺と言う美術品を多く収蔵する浄土真宗の「母の寺」として有名なお寺もあり、ちょっとした観光スポットですが、残念ながら、観光客が押し寄せるような場所にはなっていません。
 さらに、このしまなみ海道に繋がる今治市も同様で、加計学園獣医学部誘致も地域創生の観点からすると悲願であったろうと想像します。15年間も愛媛県と今治市が若者招致と畜産業へのサポート強化を軸とした地域創生(振興)を目指し、政治の力を借りて実現して何が悪いのでしょうか。努力に報いて応援する政治家やその廻りの人達はそこから発生する利権やお金と関わっていなければ問題がないように思え、今、国会で言った言わないとして取り上げられている問題より、背後で利権と金の問題がないことを明らかにする議論に時間を振り向け、無駄な時間を使わないでもらいたいと思ったりもしています。今治市も今治タオルが名産品として有名ですが、若者の定着、畜産業含む一次産業維持などに課題も多く、1985年をピースに人口の減少傾向も止まらず、人口構成比も全国に比べ若者が少なく、高齢者の多い状況となっており、20歳前後が極端に少ないことから大学誘致は悲願であったことが容易に想像できます。政治家たるものこの辺りの事情も理解した議論をして頂きたいものです。
 地域創生、地域振興を簡単に目標に掲げて選挙戦が行われますが、日本全体を覆う難しい人口動態の悪化に抗って活力ある地域を作りだすことは、地域の魅力、働ける場所、家族観、故郷感などが重要ですが、働き方改革などの中で生まれ故郷にいてもクリエイティブである程度の報酬を確保できる仕事が活き活きできる仕組みを構築するグランドデザインが必要と思います。対症療法では乗り切れない大きな問題で避けては通れない道なのですから。

2018年04月17日